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神はさいころを振らない
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2008/08/11 ( Mon ) 20:50:29
見切り発車的に第1話UP。
だらだらと長引く予定ですが、どうかお付き合いください。
基本、主人公視点ですが、それでは書き切れない部分や説明不足が出てきそうで少し怖いです。

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「ノーダイス!」
 張りのあるアルトが僕を呼ぶ。
 母さんだ。

 僕の母さんは、レプラやジーンのお母さんたちと並ぶと、頭一つ分背が低い。
 でも、もうじき妹ができるというレプラのお母さんより太っている。
 どこにでもいるような普通のおばさんだ。
 僕は、別に好きでも嫌いでもない。
 だって、お母さんとかおばさんとかっていうのは、そういうものだと思うし。

 だけど、母さんの声だけはちょっと特別だ。

「ノーダイス!」

 僕の母さんは、見た目はちょっと小柄で太ったおばさんだけど、とても印象的な声をしている。
 母さんが僕を呼ぶとき、まるでオペラ歌手のごとき艶のあるアルトが、朗々と小さな村の中を響き渡る。
 あれは、ちょっと他の人には真似ができない。
 何てったって、木箱を3つ積み上げた上に乗って、ぐるりと頭を巡らせなければ、端っこが見えないような、広い広い、ルーカス様のトマト畑の、その隅っこにいたって聞こえる。

「ノーダイス?」

 声は、年齢を増すごとに声帯の衰えから枯れてゆく。
 けれど、母さんの声は年とともに張りを増し、舞台女優もかくやと響き渡る。
 ……舞台とかミュージカルとか、僕らはそんなものを見たことはないのだけど。

「おい……、おいノーダイス、呼んでるぞ」

 一緒に隠れていたレプラが、痺れを切らしたように、ぼそりと言った。
 隣の草むらの中にいるんだから、僕にももちろん母さんの声は聞こえている。
 でも、今は、隠れ鬼の最中なのだ。
 ジーンに見つかるまで隠れ通さなくては。

「ノーダイス!」
「うわあっ!」

 突然、声がこちらに向けられて、母さんの太い腕が、薄汚れたシャツの襟首をつかんだ。
 僕のじゃない。捕まったのはレプラだ。

「あら、レプラ、うちの子を知らないかい?」

 間近で聞くとさらに迫力のある、豊かなアルトが、レプラをぶらんと下げたまま尋ねる。
 言うなよバカ、と思ったけれど、隠れ鬼のルールは、大人が入ってくると途端にめちゃめちゃになるんだ。

「そこに隠れてるけど」
 思ったとおり、あっさりとレプラは僕のいる草むらを指さした。

 母さんは、ポイッと音がしそうなほど気軽にレプラのシャツを放して、再び草むらに腕を突っ込んだ。
 つまり、僕を捕まえた。

「ノーダイス!」
「…………はぁい」

 何とも情けない結末だ。
 草むらから引っぱり出されてみれば、レプラだけでなく、カゼイもグラウも居心地悪そうに立ち尽くしていて、トマト畑の一番向こうに、ちらりとジーンの帽子が見えていた。
 どうやら、みんな、僕の母さんに見つかったらしい。

「今日は手伝うって約束だったろう。さあ、おいで」

 母さんの腕は太い。といっても、父さんの腕のように、日に焼けていたり、がっしりと逞しいわけではない。
 色が白くて、少し冷たくて、脂肪でやわらかい。
 そのくせ、僕でも抵抗できないくらい力があるんだ。
 僕だって男なのに。

 かなり情けない話だけど、僕はシャツをつかまれたまま、ずるずると引きずられて家へ帰った。



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第一章
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