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神はさいころを振らない
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2008/10/05 ( Sun ) 04:43:06
ノーダイスの父親は船乗りで、一年の半分は家にいません。
普段、ノーダイスの家は母親と二人きりです。
母さんばっかり言ってますが、身近な大人がまず母親なためで、特別マザコンではないです。

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 ちちち、ちちち。

 その朝、僕は、鳥の鳴き声で目を覚ました。
 珍しい。
 とても、すごく、珍しい。

 いつもは母さんの歌声で目が覚める。
 僕の母さんは、うたいながら朝食を作り、うたいながら洗濯をして、うたいながら掃除をする。
 毎日同じ歌というわけじゃないけれど、僕の一日は母さんの歌で始まる。

 カーテンを開けて、ベッドを下りた。
 母さんはまだ眠っているのかな。それにしては、外はもう明るいけれど。

 自分の部屋を出ると、家じゅうにふんわり卵とバターのいい匂いがしている。
 ということは、朝ごはんはできているのだ。母さんはどうしたんだろう。風邪でもひいて声が出ないのかな。
 僕は首をかしげながら、歌が聞こえない廊下を歩いて、裏の井戸へ行った。

 キコキコと重いレバーを何度か上げ下ろしすれば、汲み出された水がざあとあふれ出る。
 そのままでも充分に冷たい水で、ばしゃばしゃ顔を洗って。
 タオルを忘れたので、パジャマの裾をひっぱって顔を拭いた。あとでバレて怒られる前に洗濯籠に入れておかなくちゃ。

 ちちち、ちちゅん。

 鳥の声が聞こえる。

 静かだ。こんなの久しぶり、ううん、初めてかも。
 まるで、この家には、僕しか人間がいないみたいだ。
 いや、外だって静かすぎる。
 おかしいな。
 いつもなら、すぐ隣の家の台所からはフライパンをガチャガチャさせる音が聞こえるし、3軒向こうの家からは、鶏を追い立てるにぎやかな足音が聞こえてくるのに。

 クックドゥールドゥー。

 ものさびしげに鶏が朝を告げる。
 静かすぎる。
 まるで、この村の人間全部、いなくなってしまったみたいに。

『 ビクトリアへ逃げろ 』

 ふいに夢の中のおじさんの声を思い出し、背筋が凍った。
 まさか。そんな。

 あれは夢だ。
 あんな立派なローブを着た男の人、この村にはいない。この村どころか、この島全体を見回したっていない。
 キノコ村の長老、ルパ様だって、くすんだ刺繍の絹道袍しか着ていない。
 あの金の刺繍のまじないが使えるのは、特別な人たちだけだ。うんと偉い、それこそ英雄と呼ばれるような。

 家の中へ戻る。
 真っ先に台所を覗いた。いつもなら母さんはそこにいる。

「母さん?」

 いない。

「母さん!」

 今度は少し大きな声を出してみた。
 返事はない。
 母さんと父さんの部屋にも行ってみたが、ベッドはきちんと整えられ、人の気配はなかった。

 お風呂場。いない。物置。いない。地下の食糧庫。人が隠れられるほど広くない。トイレも鍵はかかっていない。
 裏の畑―――は井戸から見える。誰もいなかった。

 家の中は息遣いさえ聞こえてしまいそうなほど静まり返っていて、遠くで、ルーカス様が飼っている犬の鳴き声がした。

 そんな。

 だって、まさか。

 いくらなんでも。



 もう一度、台所へ戻る。
 テーブルに、2人分の朝食が載っていた。
 ふわふわにできあがったスクランブルエッグ、かりっと丸まったベーコン。
 こんがり焼けたトーストは、冷めかけているけれど。指先でさわってみればまだ、かすかに温かい。

 ということは、少なくともついさっきまで―――きっと僕が起き出す直前まで―――母さんは台所にいたことになる。
 僕はホッと息を吐いた。
 何があったかは知らないけれど、母さんは、僕と朝ごはんを食べるつもりでいたんだ。

 棚からジャムの瓶を取り、いつも自分が座る椅子を引いた。
 冷めたパンにジャムを塗りたくりながら、僕はもう片方のお皿を眺めた。
 朝ごはんも食べずに、母さんはどこへ行ったんだろう。









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第一章
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